決算賞与の代わりにブランド品はアリ?従業員への「現物給与」が節税にならない落とし穴と回避策
「今期は利益が出そうだから、頑張ってくれた従業員に決算賞与を出したい。現金もいいけれど、モチベーションアップのために、みんなが憧れるブランド品のバッグや時計を贈るのはどうだろう?」
経営者として、従業員の労をねぎらいたいという気持ちは非常に素晴らしいものです。しかし、税務の世界では、この「良かれと思った贈り物」が、思わぬ落とし穴になることがあります。
現金ではなく物品で支給する「現物給与」は、処理を誤ると節税どころか、会社と従業員の双方に追加の税負担を強いる結果になりかねません。
この記事では、ブランド品を従業員に贈る際の税務上のルールと、後悔しないための賢い回避策を詳しく解説します。
1. 「現物給与」とは?ブランド品が給与と見なされる理由
結論から言うと、会社が従業員に贈るブランド品は、原則として「給与(賞与)」と同じ扱いになります。 これを税務用語で「現物給与」と呼びます。
所得税法では、給与は「金銭」だけでなく、「食事の提供」や「物品の贈与」などの経済的利益も含まれると定義されています。ブランド品のように、市場価値が明確で換金性が高いものを無償で渡すことは、現金でボーナスを払って、そのお金でブランド品を買ったのと変わらないと判断されるのです。
なぜ「節税」にならないのか?
現金で支給しても、ブランド品で支給しても、会社側で「給与」として経費(損金)に算定される点では同じです。しかし、ブランド品を「贈答品」や「福利厚生費」として処理し、源泉所得税を徴収していない場合、税務調査で以下のペナルティが発生します。
源泉徴収漏れの指摘: 会社が納めるべき所得税を肩代わりさせられる。
不納付加算税: 期限内に納めなかったことに対する罰金。
社会保険料の計算漏れ: 現物給与も社会保険料の算定基礎に含まれるため、後から追徴されるリスク。
2. 税務調査官が厳しくチェックする「私的流用」の疑い
従業員への贈り物であっても、それが特定のブランド品、特に高級なバッグや財布、時計などの場合、調査官は別の視点からもチェックを行います。それは、**「本当に従業員に渡したのか?」**という点です。
ブランド品は、経営者自身やその家族が使うことも容易です。
「従業員に配ったことにしているが、実は社長が自分で使っているのではないか?」
「特定の親族従業員にだけ、高額な資産を移転させていないか?」
こうした疑いを晴らすためには、単なる領収書だけでなく、誰に何を渡したかという「配布名簿」や「受領印」などの客観的な証拠が不可欠になります。
3. 「現物給与」を回避して「福利厚生費」にするための3つの条件
ブランド品を贈る際、一定の条件を満たせば「給与」ではなく、非課税の「福利厚生費」として処理できるケースがあります。ただし、非常にハードルが高いのが現実です。
① 永年勤続表彰などの記念品であること
勤続10周年や20周年の記念として贈る場合、以下の要件を満たせば所得税はかかりません。
支給の利益がおおむね5年以上の間隔であること
金額が社会通念上ふさわしい範囲内であること(一般的に数万円程度)
本人が品物を選べない(選択権が限定的である)こと
② 創業記念や契約締結記念の記念品
会社が設立〇周年などの節目で、全従業員に一律で配る記念品の場合、1万円以下(税抜)程度であれば福利厚生費として認められる傾向にあります。
③ 全従業員が対象であること
「特定の営業成績優秀者だけにブランド品を贈る」という場合は、確実に「賞与」扱いとなります。福利厚生費とするためには、全従業員が平等に享受できる仕組みである必要があります。
4. 賢い経営者が選ぶ「後悔しない」支給方法
もし、どうしても従業員にブランド品を贈りたいのであれば、最初から「賞与(現物給与)」として正々堂々と処理するのが最も安全です。
手順1:源泉徴収を正しく行う
ブランド品の購入価額(通常は時価)を給与所得に加算し、源泉所得税を計算・納付します。これにより、税務調査での指摘リスクはゼロになります。
手順2:支給規定(社内規程)を作成する
「目標達成時には〇万円相当の物品を授与する」といった表彰規程を作っておくことで、恣意的な支出ではないことを証明できます。
手順3:証拠写真を残しておく
表彰式の様子や、従業員が笑顔で受け取っている写真を社内報や社内SNSにアップしておけば、これ以上ない「私的流用ではない証拠」になります。
5. まとめ:モノを贈るなら「リスク」もセットで理解する
決算賞与をブランド品で支給するのは、従業員へのサプライズとしては魅力的ですが、税務上は「現金支給」と何ら変わりません。むしろ、源泉徴収の計算ミスや私的流用の疑いといったリスクが増える側面もあります。
ブランド品は原則として「給与」扱い。
福利厚生費にできるのは、一定の「記念品」かつ「常識的な金額」のみ。
証拠(名簿・写真・規定)を揃えておくことが、最大のリスク回避。
従業員への感謝の気持ちが、税務トラブルで台無しにならないよう、正しい知識を持って実行しましょう。